岡山地方裁判所 平成4年(ワ)216号 判決 1993年1月26日
原告
村澤征一郎
被告
株式会社佐野組
ほか一名
主文
一 被告らは、原告に対し、各自金六六万円及び内金五六万円に対する平成三年九月二四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は被告らの負担とする。
四 この判決一項は仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、原告に対し、各自金九一万九二一〇円及び内金七一万九二一〇円に対する平成三年九月二四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 平成三年九月二四日午後五時二分ろ、左記の交通事故が発生した(以下、本件事故」という。)
(1) 場所 岡山県高梁市鉄砲町一七五四番地の四付近国道一八〇号線上(以下、本件事故現場という。)
(2) 加害車両 普通乗用自動車(岡一一ね三八七五、以下、被告車という。)
運転者 被告上空智之(以下、被告上空という。)
所有者 被告株式会社佐野組(以下、被告会社という。)
(3) 被害車両 普通乗用自動車(岡山五九め二五七五、以下、原告車という。)
運転者 原告
(4) 事故態様 原告車が、当該道路を直進し、交差点に接近中、対向斜線から右折しようとしている被告車を認め、急制動をとるとともに、被告車との衝突を避けるべく左にハンドル操作した。このため、原告車は被告車との衝突は避けられたが、原告車は交差点北西角のガードパイプに衝突し左前部を損傷した。
2 被告上空は、原告車の動静に注意せず、原告車より先に右折できると軽信し、原告車の前で右折し始め、原告車との衝突を避けるため急制動をとり、原告車の進路を妨害する形で停車したため、本件事故が発生した。したがつて、被告上空は民法七〇九条の責任を負う。
被告会社は、被告上空の使用者であり、同法七一五条の責任を負う。
3 原告は、本件事故により次の損害を受けた。
(1) 車両修理費 金六四万九二一〇円
(2) 代車料 金七万円
(3) 弁護士費用 金二〇万円
4 被告会社代表者及び被告上空は、原告に対し、本件事故後の平成三年九月二四日、被告会社において、本件事故に基づく損害はすべて被告らが支払う旨承諾した。
5 よつて、不法行為ないし当事者間の合意に基づき請求の趣旨記載の判決を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の内、原告主張の日時、場所で、原告がガードパイプに衝突した本件事故が発生したことは明らかに争わない。その余は否認ないし争う。
2 同2は否認する。本件事故は原告の自損事故である。
3 同3ないし5は否認ないし争う。
三 抗弁
本件事故は、幹線道路の交差点において、かなりの速度でかつ制限速度を越えて直進進行中の原告車が、十分な安全確認をしないまま交差点に進入しようとし、右折中に完全に停止していた被告車を発見して同車との衝突を回避するため急ハンドルの措置をとり、ガードレールに衝突したというものである。しかも、被告車の停止位置は原告車の進路を完全に妨害していたものではない。したがつて、被告上空に過失があるとしてもわずかである。
四 抗弁に対する認否
否認ないし争う。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。
理由
一 本件事故の発生
請求原因1の内、原告主張の日時、場所で、原告がガードパイプに衝突した本件事故が発生したことは、被告が明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。
二 本件事故に対する被告らの責任
1 本件事故発生時の状況については次の事実が認められる(甲二号証、乙一号証、原告及び被告本人尋問の結果)。
(1) 本件事故現場は、南北を走る国道一八〇号線と東西を結ぶ市道とが交差する交差点である。国道の制限速度は時速五〇キロメートルであり、交差点には信号機が設置されている。原告車は、国道を南方向から時速約六〇キロメートルの速度で直進し、青色信号に従つて交差点を直進しようとした。原告車の走行していた車線は、片側三車線の内の真ん中の直進車線である。被告車は、国道を北側から進行して交差点に至り、青色信号に従つて右折車線を進行し、交差点を右折しようとした。
(2) 被告車は、交差点手前で一時停止することなく、時速約一〇キロメートルの速度に減速したのみで、直進してきたトラツクの通過を待ち、その後時速約二〇キロメートルに加速して交差点を右折しようとした、そのとき、被告上空は、交差点を直進してくる原告車を発見し、その前方を右折することは危険であると判断して急ブレーキを踏み、交差点の真ん中付近で原告車の進路をほぼ塞ぐ位置で停止した。
(3) 原告は、交差点に進入する前から被告車が右折のウインカーを出しながら右折車線を進行してきたことに気がついていたが、被告車が直進車である原告車の進路を譲つてくれるものと考え、特に減速することなく交差点に進入した。ところが、被告車が原告車の前方に進出し、進路を塞ぐ形で停止したので、原告は衝突を防ぐため左にハンドルを切つてブレーキを踏んだ。そのため、原告車は被告車との衝突を回避することはできたが、進路左前方に設置されている道路脇のガードパイプに衝突した。
(4) 被告上空が被告会社の社員であり、本件事故は、被告上空が被告会社の作業を終えて帰社する際に起こつたものである。
2 以上によると、被告上空には、交差点手前で一時停止し、直進車の発見に努め、直進車の動静に注意し、安全な右折ができる状況を確認した上で右折を開始すべきであるのに、これを怠つた過失がある。被告上空は民法七〇九条の過失責任を免れることはできない。被告らは、本件事故は原告の自損事故である旨主張するが、前認定の事実を前提にする限り本件事故が自損事故であるということはできない。
また、被告会社は、被告上空の使用者として民法七一五条の責任を負う。
三 原告の損害
1 原告車は、本件事故の約一年前に金七〇万円で購入した中古自動車であり、本件事故による被害は修理代が購入費に匹敵するほど高額となるため廃車とされた(甲一号証、三号証の一ないし五、乙二号証、原告本人尋問)。
2 したがつて、原告の物損は基本的には原告車と同程度の車両を購入するための費用と同額となるので、原告車の購入価格、使用期間、新たに購入する際に費用のかかること等の事情を斟酌し、購入価格金七〇万円の九割すなわち金六三万円をもつて損害と認める。
また、事故後新車を購入するためには一定の期間が必要であり、金七万円(一日金五〇〇〇円として一四日)程度の代車費用は本件事故と相当因果関係があると認められる。
四 過失相殺
本件事故の発生状況は二に認定したとおりである。以上を前提にすると、本件事故は基本的には被告上空の過失により発生したものであるが、原告にも制限速度を越えて走行していた過失があり、速度を遵守しておれば本件事故を回避できた可能性も否定できないので、本件事故における原告の過失を二割とみるのが相当である。
五 被告らの支払うべき損害額
1 以上によると、被告らは、金七〇万円(金六三万円+金七万円)の八割である金五六万円の損害賠償義務がある。
2 また、本件と相当因果関係のある弁護士費用は金一〇万円と認められる。
3 したがつて、被告らは金六六万円の支払義務がある。
六 原告は、被告らとの間で本件事故に基づく損害はすべて被告らが支払うとの契約ができたと主張し、原告本人も本人尋問の中でその旨述べているが、契約を示す書面が作成された訳でもなく、本件証拠によるかぎり法的義務を伴つた契約が成立したとまで認めることはできない。原告の主張は理由がない。
七 よつて、原告の本訴請求は主文掲記の範囲で理由があるから、この範囲で認容し、その余の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条九三条を適用し、仮執行宣言につき同法一九六条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 山名学)